生まれつきによりて、即座に知恵の出る人もあり、退いて枕をわりて案じ出す人もあり。
この本を極めて見るに、生まれつきの高下はあれども、四誓願に押し当て、私なく案ずる時、
不思議の知恵も出づるなり。
皆人、物を深く案ずれば、遠き事も案じ出すやうに思へども、私を根にして案じ廻らし、皆邪智の働きにて、
悪事となる事のみなり。
愚人の習ひ、私なくなること成りがたし。
さりながら、事に臨んで先づその事を差し置き、胸に四誓願を押し立て、私を除き工夫いたさば、
大はづれあるべからず。

聞書第一 四

生まれつきの知恵者もいれば、枕をたたき考えやっとの思いで知恵に至る者もいる。
どんな難儀な事でもじっくりと考えれば考える出せることだと思うが、なかなか良い思案は
思い浮かばないものだ、それはを捨てないからである。

何事も私を中心に思案判断すれば自我が膨らむばかりで邪な考えになってしまうばかりである。

であるから、事に臨めば四誓願に従い考えれば大きくはづれることはない、四誓願とは

一つ、武士道においておくれをとるべからず

一つ、目上の人の役に立つべきこと

一つ、親に孝行すること

一つ、深い慈悲を持ち人の為になるべきこと